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大阪地方裁判所 平成8年(行ウ)140号 判決

大阪市阿倍野区天王寺町北二丁目一四番六号

原告

豊光実業株式会社

右代表者代表取締役

大村元昭

右訴訟代理人弁護士

国谷史朗

池田裕彦

田中信隆

右国谷史朗訴訟復代理人弁護士

苗村博子

大阪市阿倍野区三明町二丁目一〇番二九号

被告

阿倍野税務署長 西山義孝

右指定代理人

高橋伸幸

長田義博

東曠

浜垣治郎

主文

一  本件訴えのうち、昭和六三年一〇月一日から平成元年九月三〇日までの事業年度の法人税の更正につき所得金額二五億一三〇七万一五一〇円、納付すべき税額六億二六三一万一九〇〇円を超えない部分の取消しを求める訴え、及び平成元年一〇月一日から平成二年九月三〇日までの事業年度の法人税の更正につき所得金額四億五〇五八万三七七三円、納付すべき税額一億二六七八万八五〇〇円を超えない部分の取消しを求める訴えをいずれも却下する。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

被告が原告に対し、平成四年一一月二七日付でした原告の昭和六三年一〇月一一日から平成元年九月三〇日までの事業年度、及び平成元年一〇月一日から平成二年九月三〇日までの事業年度の法人税の各更正及び過少申告加算税の各賦課決定を取り消す。

二  被告

(本案前の答弁)

主文第一項と同旨

(本案の答弁)

主文第二項と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、当時の原告の本店所在地を管轄する東税務署長(以下「原処分庁」という。)に対し、昭和六三年一〇月一日から平成元年九月三〇日までの事業年度(以下「平成元年九月期」という。)及び平成元年一〇月一日から平成二年九月三〇日までの事業年度(以下「平成二年九月期)という。)の各法人税につき、それぞれ別表1、2の「確定申告」欄のとおり確定申告をした。

2  原処分庁は、原告の右各事業年度の法人税につき、平成四年一一月二七日付で別表1、2の「更正」欄のとおり、更正及び過少申告加算税の賦課決定(以下、それぞれ「本件更正」、「本件賦課決定」といい、これらをまとめて「本件課税処分」という。)をした。

3  これに対し、原告は、国税通則法七五条二項の規定により、平成五年一月二九日、大阪国税局長に対して異議申立てをしたが、同年四月一九日付で右申立ての棄却決定を受けたため、さらに、同年五月一九日、国税不服審判所長に対して審査請求をした。国税不服審判所長は、平成八年六月二八日付で右審査請求をいずれも棄却するとの裁決をした。

4  しかし、本件更正には原告の所得金額を過大に認定した違法があり、したがって、本件更正を前提としてされた本件賦課決定も違法である。

5  よって、原告は、本件更正及び本件賦課決定の取消しを求める。

二  被告の本案前の主張

原告は、別表1、2の「確定申告」欄のとおり、平成元年九月期については所得金額二五億一三〇七万一五一〇円、納付すべき税額六億二六三一万一九〇〇円、平成二年九月期については所得金額四億五〇五八万三七七三円、納付すべき税額一億二六七八万八五〇〇円として確定申告をした。そうすると、本件更正のうち、原告が申告した課税標準額を超えない部分については、その範囲で納税義務が確定したものであるから、その取消しを求める訴えの利益はないことになる。よって、右部分の取消しを求める訴えは、不適法なものとして却下されるべきである。

三  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の事実は認める。

2  同4は争う。

四  被告の主張

1本件の事実経過

(一)  映画の製作

Tri-Star Pictures, Inc. (以下「TSP」という。)は、〈1〉「STEEL MAGNOLIAS」及び〈2〉「THE VON METZ INCIDENT」と題する映画を、Columbia Pictures Industries, Inc(以下「CPII」という。)は、〈3〉「IMMEDIATE FAMILY」と題する映画(以下、これらをまとめて「本件映画」という。)をそれぞれ製作した。

(二)  本件映画の配給に係る資金の募集と原告の参加

(1) Merrill Lynch Capital Markets(以下「メリルリンチ」という。)は、平成元年ころ、「映画投資事業組合」と題する説明書(以下「本件説明書」という。)を作成した。その内容は、概ね次のとおりである。

(イ) 取引の概要

日本の投資家を集めて映画投資事業組合(以下「組合」という。)を結成し、出資組合員の自己資金及び在日銀行からの借入金により、興行関連会社グループの米国親会社から複数本の映画を購入し、International Film Distributors, B. V.(以下「IFD」という。)との間で映画の賃貸・配給契約を締結し、IFDが単一ないし複数の映画配給会社を使って全世界に配給する。

組合員の税引後損益は、〈1〉映画興行の相対的成功度で決まる変動レンタル料の組合受領金額と、〈2〉本事業の税処理とで決まる。

IFDは、映画フィルム賃貸・配給契約の内容に基づき、組合に対し、経費充当分として定められた金額を支払い、さらに、〈イ〉全世界からの映画の総収入の一〇パーセント(これを「変動レンタル料」という。)及び〈ロ〉映画フィルムの興行収入から興行に要した費用及び〈イ〉の金額を差し引いた額(これを「調整レンタル料」という。)の合計額を支払う。ただし、各映画の右の〈イ〉と〈ト〉の総額が各映画の購入価格を超えた後は、総配給収入より配給に要した費用を差し引いた額の五〇パーセントに当たる額を、配給金としてIFDが手にする。

さらに、IFDは、右〈ロ〉に関して、七年間の組合への支払累計金額が別途定めた金額(最低保証額)に満たないときには、この最低保証額と既に支払われた合計調整レンタル料との差額を保証する。

賃貸・配給契約には、IFDが七年後に組合から当該映画フィルムを買い取る権利を有し、IFDが買い取らない場合には組合が再び映画フィルムを賃貸する権利を有する、という内容が含まれる。

ML Film Entertainment International Inc. (以下「エム・エル・フィルム」という。)が組合の業務執行者として運営に当たる。

本案件の実行日は、別途知らせる。

なお、本件説明書は概要説明のためのものであり、取引内容は契約書内で詳細に規定されている。

(ロ) 回取引の内容

最低出資単位を一〇〇万USドルとして、映画購入に必要な口数を募集する。購入価格の約七五パーセントは償還期間七年間の借入金で賄い、購入費用の差額の約二五パーセントは組合員の出資金から充当する。

(ハ) 投資損益

投資家が投資によって得る損益は、組合がIFDから受け取る収入と組合員の税務処理から生まれるものとの二種類の源泉から生ずる。

一番目の組合がIFDから受け取る収入は、変動レンタル料として映画総収入の一〇パーセント相当額のほか、調整レンタル料等がある。

投資損益を構成する二番目の要素は、映画投資に関する日本の税法に起因するものであるが、課税上の優遇措置が将来組合員になる者に適用されるとは断定できないし、日本の税務当局が課税上の優遇措置を認めるとの保証もない。

(2) 原告は、本件説明書に基づく説明を受け、主として本件映画の減価償却等の経費処理による法人税の負担軽減の利益を得るため、組合に参加することを決定し、後記((三)(1)(イ)〈2〉)のとおり一億四三九五万円を支出した。

(三)  平成元年九月二七日付各契約書の内容

次の各契約書は、いずれも平成元年九月二七日付で作成されたものである。

なお、これらの契約書のうち、組合の結成に係る契約書以外の契約書は、いずれもすべて英文であり、日本語版は存在しない。また、次の(4)ないし(7)の各契約書は、映画製作会社別に作成されており、各二通存在する。

(1) 組合の結成に係る契約書

ファイアースター映画投資事業組合(以下「ファイアースター」という。)の結成に係る契約書としては、「ファイアースター映画投資事業組合組合契約」と題する契約書(以下、「本件組合契約書」といい、その内容を「本件組合契約」という。)及びその付属書類である「組合規約」と題する書面(以下、「本件組合規約書」といい、その内容を「本件組合規約」という。)があり、本件組合契約書には原告ほか一一社が記名押印している。

(イ) 本件組合契約書には、概ね次のような規定がある。

〈1〉 ファイアースターは、本件組合契約及びこれと一体となる本件組合規約に準拠するものとする。

〈2〉 各組合員は、本件組合契約書の末尾に記載される金額(以下「出資金」という。)を、平成元年九月二七日午後一時までに、三井銀行本店において、オランダ銀行東京支店(以下「オランダ銀行」という。)のファイアースター名義の当座預金口座宛に送金することによって払い込むものとする。

本件組合契約書末尾の記載によると、ファイアースターは、出資総額二三億〇三二〇万円を一六口に分割して組合員を募っており、原告は、その一口分に当たる一億四三九五万円を出資することとなっている。

〈3〉 各組合員は、アメリカ合衆国デラウェア州法人で日本国内に恒久的施設を置かないエム・エル・フィルムとの間で、Firestar Film Enterprises Management Agreement(以下「本件管理契約」という。)を締結することに同意する。本件管理契約に基づき、エム・エル・フィルムは、ファイアースターの業務執行者となり、各組合員は、ファイアースターの存続中は、本件管理契約による業務執行者の任命の取消しをしないことに同意する。

〈4〉 本件組合契約の変更には、組合員全員の書面による合意を必要とする。

(ロ) 本件組合規約書には、概ね次のような規定がある。

〈1〉 ファイアースターは、日本国民法の規定に基づく民法上の組合とする。

〈2〉 ファイアースターの目的は、本件映画の所有権並びにすべての権利、権原及び権益を購入し、本件映画を世界中で、すべての媒体を通じて商業的に利用することにある。このため、ファイアースターは、本件映画を購入する契約、本件映画についての全世界における唯一かつ排他的配給者を任命する契約及びその他の関連諸契約を、それぞれ締結するものとする。

〈3〉 ファイアースターは、オランダ銀行から約四九九五万USドル相当円貨額の融資を受け、本件映画購入のため、六三六七万五〇〇〇USドル相当円貨額の支払をする。

〈4〉 ファイアースターは、民法六八二条所定の事由が早期に発生しない限り、本件映画のいずれかについて、その所有権並びにそれに対する何らかの権利、権原及び権益を保有している限り存続するものとする。この期間が満了する場合、ファイアースターは清算手続に入る。

〈5〉 ファイアースターが解散した場合、業務執行者以外の個人又は会社その他の法人を任命する旨の組合の決議がされない限り、業務執行者が清算人となる。清算人は、ファイアースターの現務を結了させるため、必要又は適切なすべての事項を行う権限を有する。

〈6〉 組合員は、ファイアースターの清算前に、ファイアースターの財産の分割を要求する権利を有しない。各組合員は、本件組合規約に定める一定の条件を満たす場合には、毎年三月三一日に限り持分を譲渡することができるが、右の場合を除き、任意に脱退することができない。

〈7〉 出資比率が五〇パーセント以上に当たる組合員の要請があった場合又は業務執行者が相当と判断した場合、組合員会議が開催されるものとする。右会議において、その出資比率が七五パーセント以上に当たる組合員の賛成により成立した決議は、業務執行者及び全組合員を拘束する。ただし、右決議が本件管理契約において業務執行者が履行すべきものとされている義務の範囲に属しない限り、業務執行者を拘束しないものとする。

〈8〉 組合員が脱退した場合は、それが任意であるか非任意であるかを問わず、ファイアースターに対し現金による一時払いを請求する権利を有さず、脱退組合員の持分についてのファイアースターとの清算は、組合員としてとどまった他の組合員が配分を受ける時点で、それと同じ方法及びその限度において、脱退しなかった場合と同様に行われるものとする。

〈9〉 組合員は、ファイアースターが前記〈3〉の融資の契約上のすべての債務を完済するまで、さらにファイアースターが本件映画の権利、権原及び権益を保有している限り、ファイアースターの解散動議をしないことを誓約し、これに同意する。

(2) オランダ銀行からの借入れに係る契約書

ファイアースターのオランダ銀行からの借入れに係る契約書としては、Loan Agreementと題する書面(以下、「本件融資契約書」といい、その内容を「本件融資契約」という。)、Assignment Agreementと題する書面(以下「本件債権譲渡担保契約書」という。)及びAccount Pledge Agree-mentと題する書面(以下「本件口座質権設定契約書」という。)がある。

(イ) 本件融資契約書には、概ね次のような規定がある。

〈1〉 借主(ファイアースター)は、借入金がGenesis Project, Inc. (以下「ジェネシス」という。)から本件映画を購入するためにのみ使用され、他の目的のためには使用されないことに同意する。

〈2〉 借入金額は、七一億九〇三〇万二五〇〇円である。

〈3〉 利息は年率五・五パーセントで月複利とし、利息の計算に当たっては、一年を三六〇日、一月を三〇日として計算するものとする。延滞利息は、右利率に年率二パーセントを加えた利率とする。

〈4〉 ファイアースターは、返済日までに残額を返済しなければならない。ただし、アドバンス額及びネット支払額を受領したときは、直ちにこれに相当する金額を貸主(オランダ銀行)に支払わなければならない。オランダ銀行は、これを受領した時点で返済があったものとする。なお、右にいう返済日とは、原則として、借入日から七年目に当たる日を意味する。

〈5〉 政策等によりオランダ銀行のコストが増加した場合、やむを得ないときには、ファイアースターは増加コストを支払わなければならないことなどがある。

〈6〉 IFD及びその承継人等が、Option Agreement(以下「本件オプション契約」という。)に基づくオプションを行使した場合、ファイアースターは、オプション価格が本件オプション契約に基づき支払われる日において、借入金のすべての残額を、期日前返済に伴う何らかの損失金とともに支払うことを要求される。

〈7〉 ファイアースターは、オランダ銀行に二口の預金口座を設定し、IFD(及びその承継人)に指示し、右預金口座にのみすべての支払を行わせることとする。

〈8〉 ファイアースターは、オランダ銀行の文書による事前の同意なしに、Guarantee Agree-ment(以下「本件保証契約」という。)、Distribution Agreement(以下「本件配給契約」という。)又は本件オプション契約を変更したり、あるいは、いかなる方法によろうとも、本件融資契約に基づくオランダ銀行の権利に重大な影響を及ぼすような本件組合契約の変更を行ってはならない。

(ロ) 本件口座質権設定契約書には、オランダ銀行が、右(イ)〈7〉の預金口座のうち一口の口座に質権を設定する旨の規定がある。

(ハ) 本件債権譲渡担保契約書には、ファイアースターは、本件配給契約及び本件オプション契約に基づきIFDから受領するすべての権利及びその全金額、本件保証契約に基づいてHollandsche Bank-Unie N. V.(以下「HBU銀行」という。)がした保証に関するすべての権利及びこれらに代替するものを本件融資契約に係る債務の担保として、オランダ銀行に譲渡する旨の規定がある。

(3) ジェネシスからの買入れに係る契約書

ファイアースターのジェネシスからの本件映画の買入れに係る契約書としては、Agreement of Purchase and Saleと題する書面(以下「本件売買契約書」といい、その内容を「本件売買契約」という。)がある。本件売買契約書には、概ね次のような規定がある。

(イ) 本件映画の価額は、次のとおりである。

映画の題名 購入価額

STEEL MAGNOLIAS 三一億九九二八万八七五〇円

THE VON METZ INCIDENT 三四億八七一八万八七五〇円

IMMEDIATE FAMILY 二四億七九五三万八七五〇円

合計 九一億六六〇一万六二五〇円

(ロ) 売主(ジェネシス)は、本件売買契約書の作成・交付とともに、〈1〉 本件映画に関する物件を、ラボラトリー・アクセス・レターによって、買主(ファイアースター)の名義へ変更し、〈2〉 本件映画に関するBill of Saleをファイアースターに交付し、〈3〉 Assignmentによって、ファイアースターに対し、著作権の譲渡を行う。

これらにより、本件売買契約は履行される。

(ハ) ジェネシスは、ファイアースターに対し、次のことを保証する。

〈1〉 ファイアースターは、本件映画に関し、世界中における著作権、オリジナル・ネガティブ及び本件映画又はその部分が化体されている他の有体物及びその関連権利に対するジェネシスの完全な権利を得ること。なお、この権利には、ファイアースターとIFDとの間で締結される本件配給契約においてファイアースターがIFDに与えるべきすべての権利を与えることを可能とするすべての権利を含むこと。

〈2〉 適切な品質規格、一定の上映時間及びアメリカ合衆国での上映上の一定のレーティング取得の蓋然性等を有すること。

〈3〉 著作権等上の問題がないこと。

〈4〉 試写等を除き、上映されたことがないこと。

(4) IFDに対する配給権付与に係る契約書

ファイアースターのIFDに対する本件映画の配給権付与に係る契約書としては、Distribution Agreementと題する書面(以下「本件配給契約書」という。)がある。本件配給契約書には、概ね次のような規定がある。

(イ) 本件配給契約上、「最初の期間」とは本件配給契約開始の日から七年間をいい、「延長期間」とはファイアースターが期間のExtension Option(以下「延長オプション」という。)を行使した場合のその後の七年間をいい、両者を合わせて「期間」という。

(ロ) ライセンサー(ファイアースター)は、配給者(IFD)に対し、次のことを保証する。

〈1〉 適切な品質規格、一定の上映時間及びアメリカ合衆国での上映上の一定のレーティング取得の蓋然性等を有すること。

〈2〉 著作権等上の問題がないこと。

〈3〉 試写等を除き、上映されたことがないこと。

〈4〉 本件配給契約によりIFDに与えられた権利等は、本件映画に関するいかなる契約の不履行、違反、解除、終了の理由によってもその結果としても、解除、変更その他の不利な影響を受けることがなく、また、ファイアースターは、契約期間中いかなる契約の改正、変更、終了、又は契約の条項によるIFDの権利に不利益な影響を与えるような変更、終了、解除等も行わないこと。

〈5〉 ファイアースター又はその組合員は、本件映画に関する権利又は権益を、IFDに与えられた権利に悪影響を与えるようには、いかなる者にも売却、譲渡するなどしないこと。

(ハ) ファイアースターの本件配給契約による保証の違反が、Midvale Pictures, Inc.(以下「メディバル」という。)とジェネシスとの間の売買契約によるメディバルの保証の違反の結果もたらされるものである場合には、その限度において、本件売買契約の規定にかかわらず、ファイアースターは免責される。

(ニ) ファイアースターは、IFDに対し、本件配給契約の期間中、次の権利を単独かつ排他的に与える。

〈1〉 IFDの裁量により、題名の選択、変更をすること及びIFDの付けた題名で全世界で本件映画を封切ること。

〈2〉 IFDの裁量により、本件映画、オリジナル・ネガティブその他の本件映画が化体されている有体物をカットし、編集し、追加し又は変更すること。また、外国版を作成(字幕を付け、吹き替えること等を含む。)すること。

〈3〉 IFDの選択するラボラトリー等に本件映画に関するポジティブ・プリント、ビデオ・テープ、ディスクその他を作成させること等。

〈4〉 IFDの裁量により、本件映画の広告、宣伝・普及等を行うこと。なお、ファイアースターは、IFDの事前の同意なしに、本件映画に関する広告等をすることはできない。

〈5〉 IFDは、本件配給契約の期間を通じ、その供与の時点における慣習に従い、右期間を超える期間にわたる本件映画の公開の権利を第三者に与えることができ、右第三者の権利は、本件配給契約の期間終了によって影響されないこと。

(ホ) 完成し、すべての点において公開の準備のできた本件映画は、本件配給契約書の作成・交付後直ちにIFDに交付されるものとする。本件映画の製作がいまだ進行中の場合は、ファイアースターは、本件映画の化体された有体物をすべて現状のまま引き渡すこととし、IFDは、その裁量により、右有体物をカットし、編集し、追加し、削除するなどの権限を有することとする。

(ヘ) IFDは、ファイアースターに対し、次の金員を支払う。

〈1〉 Advance(以下「アドバンス額」という。)

アドバンス額は、本件映画に関し、本件配給契約書に規定するNet Payment Amounts(以下「ネット支払額」という。)の前払金として、本件配給契約締結の日から各映画の封切りの日までの間の各月に対して一二〇万円の金額とする。右アドバンス額の総額は、本件配給契約書に規定するGross Payment Amounts(以下「グロス支払額」という。)の最初の支払と同時に支払われるものとする。

〈2〉 グロス支払額

グロス支払額は、本件映画のそれぞれに関し、本件配給契約中のAdjusted Gross Pro-ceeds(以下「調整総収益」という。)の一〇パーセントに該当する金額とする。なお、調整総収益は、本件配給契約書の添付書類に従って定義・計算・決定・請求及び支払がされる。

〈3〉 ネット支払額

ネット支払額は、本件映画のそれぞれに関し、Adjusted Net Proceeds(以下「調整純収益」という。)のファイアースターの取り分が、グロス支払額に前払金を加算した金額を超える金額とする。右調整純収益のファイアースターの取り分とは、調整純収益の総額が、損益分岐点と同額までは調整純収益の金額、損益分岐点を超える場合は調整純収益の五〇パーセントとする。なお、調整純収益は、本件配給契約書の添付書類に従って定義・計算・決定・請求及び支払がされる。

損益分岐点は、本件映画のそれぞれについて、次のとおりとする。

映画の題名 損益分岐点

STEEL MAGNOLIAS 三一億九九二八万八七五〇円

THE VON METZINCIDENT 三四億八七一八万八七五〇円

IMMEDIATE FAMILY 二四億七九五三万八七五〇円

〈4〉 Net Guarantee Payment(以下「保証支払額」という。)

保証支払額とは、IFDが、本件配給契約の最初の期間の第七回目の会計期間に調整純収益についての計算書の提出を要求される日(以下「決済日」という。)以前におけるMinimum Net Guarantee Amounts(最低保証額)九六億四一〇七万九二二五円が、次の合計額を超える金額をいう。

〈イ〉 本件映画のアドバンス額とネット支払額の合計額

〈ロ〉 右〈イ〉の各金額に対し、右各金額の支払日から決済日までの期間で年五・五パーセントの利率で月々複利計算した利息額

ファイアースターに対するIFDの支払債務である保証支払額は、いかなる理由によって本件配給契約が終了しても存続するものとする。本件配給契約の他の条項に反対のものがあるか否かにかかわらず、保証支払額は、いかなる理由があろうとも、IFDによって、支払停止、支払延期、相殺、反訴を行うことなく全額が支払われなければならない。

〈5〉 これらのFixed Payments(以下「フィックスト支払額」という。)は、本件配給契約書の添付資料に記載された金額と日をもって、日本円で支払われる。

〈6〉 本件配給契約に基づくIFDの支払義務は、ファイアースターとIFDとの間で締結された本件オプション契約に基づくClass A Purchase Option(以下「クラスAオプション」という。)の行使により、本件オプション契約に規定する範囲でのみ自動的に消滅する。

(ト) IFD(又はその譲受人)がクラスAオプションを行使しなかった場合、ファイアースターは、本件映画の最初の期間の終了時から、本件配給契約を七年間延長する延長オプションを有する。延長オプションは、本件配給契約締結から六年経過後の日から行使することができ、本件オプション契約に規定するセカンド・オプション期間(後記(5)(ロ))の間にIFDがクラスAオプションを行使しないことを条件として、右セカンド・オプション期間終了によって有効となる。

(チ) ファイアースターが延長オプションを行使した場合、延長された本件映画に係る本件配給契約の期間は、自動的に延長期間の間、最初の期間に関し本件配給契約に含まれるすべての条項について延長される。ただし、IFDはファイアースターに対し、前記へに代えて次の金額を支払う。

〈1〉 Extension Advance(以下「延長アドバンス額」という。)

延長アドバンス額とは、最初の期間終了後、九〇日以内に支払われる次の金額をいう。

映画の題名 延長アドバンス額

STEEL MAGNOLIAS 三億一九九二万八八七五円

THE VON METZ INCIDENT 三億四八七一万八八七五円

IMMEDIATE FAMILY 二億四七九五万三八七五円

〈2〉 グロス支払額

〈3〉 ネット支払額

ただし、延長アドバンス額を超える金額の五〇パーセントの金額

(リ) IFDがクラスAオプションを行使せず、ファイアースターが延長オプションを行使しなかった場合、本件配給契約は、前記セカンド・オプション期間終了の日に終了する。

(ヌ) 肉本件映画は、万国著作権条約及び米著作権法(改訂版)に従った著作権表示が含まれているものとする。

IFDは、自らの名義あるいは著作権所有者の名義で、本件映画の不正な複製、公開若しくは本件映画の著作権の侵害を防止し、又はファイアースター若しくはIFDの権利の侵害等を防止するため、必要又は適当と認める手段を採ることができるものとする。ファイアースターは、IFDに対し、右手段を採るために必要な、撤回不能の代理権を与えることとし、そのため、ファイアースターは、IFDに対し、本件配給契約書の添付資料の委任状を作成・交付する。

(ル) IFDは、本件映画に関するプリント及びその他のフィルムを破棄することができる。ただし、ファイアースターの費用負担により提供されたネガティブ等は除く。

(ヲ) IFDは、その裁量と選択により、Subudistributor(以下「第二次配給者」という。)に対し、本件配給契約上の地位を譲渡することができ、又は本件配給契約上の権利を譲渡若しくは許諾することができる。ファイアースター及びIFDは、本件配給契約に明示されている場合を除き、他方の当事者の事前の書面による同意なしには、本件配給契約上の権利を譲渡することはできない。

(ワ) ファイアースターは、IFDから、本件配給契約に基づく権利を証明、維持、有効化又は保護するための必要かつ適切な文書を要求された場合、右要求を実施しなければならない。ファイアースターが右要求を実施しない場合には、ファイアースターは、IFDがファイアースターの代理人として右要求を実施する権利を、IFDに与えるものとする。

(カ) 本件配給契約によってIFDに与えられた、又は与えることが合意された本件映画に関する権利、権原等は、本件配給契約又は関連契約の失効又は終了によって影響を受けない。ファイアースターのIFDに対する保証等は、本件配給契約の失効又は終了にかかわらず、有効に存続するものとする。

(ヨ) IFDが本件配給契約に違反したときのファイアースターの権利及び救済は、損失の回復に限られ、ファイアースターは、本件配給契約を終了させる権利、IFDの権利等を取り消す権利、又は本件映画の公開等を規制し若しくは制限することを含むすべての権利又は救済を放棄する。また、IFDが本件配給契約に基づくファイアースターに対する支払を怠った場合でも、IFDの本件映画に関する権利は終了、解除されることはなく、右不履行があった場合のファイアースターの救済としては、金銭上の損失の回復を求めるための法律上の措置を採ることができるにすぎない。

(5) IFDに対する購入選択権付与に係る契約書

ファイアースター及びその組合員(以下「ファイアースター等」という。)のIFDに対する本件映画の購入選択権付与に係る契約書としては、OPTION AGREEMENTと題する書面(以下「本件オプション契約書」という。)がある。本件オプション契約書には、概ね次のような規定がある。

(イ) ファイアースター等は、IFDに対し、ファイアースター等の本件映画に関するすべての権利、権原及び権益を無条件で取得する、取消不能な、かつ独占的な権利及び購入選択権(クラスAオプション)を与える。

(ロ) IFDは、本件映画に関してクラスAオプションを行使する能力を危うくしたり、損なったり、その他悪影響を及ぼしたりするような可能性がある何らかの事実等が生じたと誠実にかつ合理的に判断した場合、本件オプション契約締結日から、同日以降七年後に当たる日のロサンゼルス時間の深夜一二時までの期間(ファースト・オプション期間)に、いつでもクラスAオプションを行使することができる。また、右事実が発生しなかった場合においても、IFDは、本件オプション契約締結日から、同日以降六年経過した日以降において、IFDがファイアースターからセカンド・オプション期間開始についての書面による通知を受け取った日から一年を経過した日のロサンゼルス時間の深夜一二時までの期間(セカンド・オプション期間)中に、いつでもクラスAオプションを行使することができる。

(ハ) IFDがクラスAオプションを行使した場合、本件映画に関するファイアースター等の権利、権原、権益、本件売買契約に基づくファイアースターの権利等は、クラスAオプションの効力発生日に、自動的に、取消不可能な状態で、移転、譲渡等される。なお、ファイアースターは、いかなる契約書、証書等も作成、交付する必要がない。また、クラスAオプションの行使によって、本件配給契約は、IFDの一定の金員の支払義務を除き、自動的に終了する。

(ニ) IFDがクラスAオプションを行使した場合、IFDは、ファイアースターに対し、保証支払額のほか、最低でも、フィックスト支払額として九億一六六〇万一六二五円(クラスAオプション価格)を支払う。

(ホ) ファイアースターの各組合員は、IFDに対し、ファイアースターの各組合員のファイアースターに対するすべての権利、権原及び権益を無条件で取得する、取消不能な、かつ独占的な権利及び購入選択権(Class B Purchase Option。以下「クラスBオプション」という。)を与える。

(ヘ) IFDは、ファイアースターの各組合員のいずれかがファイアースターに対する権利等に関してクラスBオプションを行使する能力を危うくしたり、損なったり、その他悪影響を及ぼしたりするような可能性がある何らかの事実等が生じたと誠実にかつ合理的に判断した場合、右組合員(以下「該当組合員」という。)に対し、ファースト・オプション期間及びセカンド・オプション期間中のいつでも、クラスBオプションを行使することができる。

(ト) IFDがクラスBオプションを行使した場合、該当組合員のファイアースターに対する権利等は、自動的に、取消不可能な状態で、IFDに移転、譲渡等される。なお、該当組合員は、いかなる契約書、証書等も作成、交付する必要がない。

(チ) IFDがクラスBオプションを行使した場合、IFDは、一定のClass B Option Price(クラスBオプション価格)を支払う。

(リ) ファイアースターは、IFDの事前の書面による同意なく、そのすべての資産につき譲渡、担保提供等をすることができないことを保証する。

(ヌ) ファイアースターの組合員及び業務執行者は、IFOの事前の書面による同意なく、本件各契約を、改正、修正し、又は終了させることができないことを保証する。

(ル) ファイアースターの各組合員は、IFDが本件オプション契約に基づいて行い、また、本件オプション契約でカバーされ、期待されている取引を完遂するため要求するすべての契約、文書及び指図書につき、署名し、認知し、記録し、保管すること、及びすべての行動をとることについて、IFDを各組合員の合法的な代理人として、撤回不能で指名する。

(ヲ) IFD及びその承継人は、いかなる者に対しても、本件オプション契約に基づくいかなる権利をも譲渡し、又はいかなる義務をも引き受けさせることができ、かかる承継人等は、ファイアースター等と直接契約をしたかのごとく、本件オプション契約に関しIFDと同一の地位に立ち、ファイアースター等は、IFDの単独かつ絶対的な裁量により与えられる事前の書面による同意なくして、本件オプション契約による権利を譲渡し、又は義務を引き受けさせることができない。

(6) IFDに対する担保権付与に係る契約書

ファイアースター等のIFDに対する本件配給契約及び本件オプション契約に基づく義務の完全な履行を担保するため締結された契約書としては、Security Agreement Option-FFE to IFDと題する書面(以下、その内容を「本件オプション担保契約」という。)及びSecurity Agree-ment Distribution-FFE to IFDと題する書面(以下、その内容を「本件配給担保契約」という。)がある。これら各契約書には、概ね次のような規定がある。

(イ) ファイアースター等は、本件オプション契約及び本件配給契約に係る権利につき、IFDに対し、ファイアースター等にあっては本件オプション担保契約による第一順位の担保を設定し、あるいは譲渡、移転等をし、ファイアースターにあっては本件配給担保契約による第二順位の担保を設定し、あるいは譲渡、移転等をする。

(ロ) 担保物件は、本件映画から派生する著作物、本件映画のオリジナル・ネガティブ及びその他の化体物件に対するファイアースターのすべての権利、権原及び権益であり、各組合員にあってはその組合員としての権益とする。

(ハ) ファイアースターは、IFDの事前の書面による同意なく、担保物件又はこれに関する権利の担保提供、譲渡、引渡し等をしてはならない。IFDは、本件オプション担保契約及び本件配給担保契約に基づく権利及び担保物件又はこれに関する権利につき、ファイアースターの事前の書面による同意なく、第三者に対し、担保提供、譲渡、引渡し等をすることができる。

(ニ) ファイアースターは、カリフォルニア州及びニューヨーク州当局へのUCCファイリングのためのファイナンシング・ステートメント等並びに著作権担保・譲渡証をIFDに交付しなければならず、また、IFDがその権利、担保を証明し、完遂し、有効化し、又は保護するのに必要と認められる手段を採るため要求するその他の書類を交付しなければならない。ファイアースターが右要求後五日以内に所要の措置を採らない場合、ファイアースターは、IFDがIFD自身及びファイアースターの名においてすべての措置を採ることを授権し、また、この点に関し、IFDを代理人に任命する。この授権及び任命は撤回不能である。

(ホ) ファイアースターは、本件売買契約によるラボラトリーを担保権者としてのIFDの代理人に撤回不能で任命し、ラボラトリーが所要の措置を採るよう指示した指示書をIFDに交付する。右ラボラトリーは、IFDの代理人として、ファイアースターの債務不履行が生じた場合、IFDの指示により担保物件の全部又は一部を処分することを授権される。

(ヘ) ファイアースターの各組合員についても、右(ハ)、(ニ)に相当する規定がある。

(ト) 債務不履行の場合、IFDは、ファイアースター又はその各組合員の代理人に撤回不能で任命され、代理人として、書簡の開披等のほか、本件配給契約、本件売買契約、その他の関連契約、ファイアースターの組織上の規定等による権利を行使すること等ができる。

(7) IFDに対する著作権譲渡担保権付与に係る契約書

ファイアースターの各組合員のIFDに対する著作権譲渡担保権付与に係る契約書としては、Agreement of Assignment of Copyright by way of Securityと題する書面(以下「本件著作権譲渡担保契約書」という。)がある。本件著作権譲渡担保契約書には、概ね次のような規定がある。

(イ) 各組合員は、本日、IFDに対する本件オプション契約に基づく一切の債務の履行等を担保するため、本件映画の著作権を譲渡した。

(ロ) 本件著作権譲渡担保契約書は、本件オプション担保契約に基づき締結されたものである。

(8) HBU銀行の保証に係る契約書

HBU銀行のファイアースターに対する保証に係る契約書としては、Guarantee Agreeimentと題する書面(以下「本件保証契約書」という。)がある。本件保証契約書には、概ね次のような規定がある。

(イ) 保証人(HBU銀行)は、ライセンサー(ファイアースター)に対し、配給者(IFD)のアドバンス額、ネット支払額及びギャランティ支払相当額の支払を保証し、IFDが右各支払をしなかった場合には、原価、費用あるいはHBU銀行又はIFDによって支払われ、源泉徴収される税金の合計額の支払をHBU銀行が要求されることがないという条件の下で支払う。ただし、右金額の現在価値がミニマム・ギャランティ額の現在価値を、いずれも年率五・五パーセント月複利の割引率で計算したところで、超えない範囲とする。

(ロ) 支払は、円貨により、オランダ銀行のファイアースターの口座に対して行われる。

(四)  著作権の登録

本件映画の著作権登録原簿には、次のような記載がある。

(1) 本件映画の最初の著作者は、TSP及びCPIIである。

(2) ジェネシスは、平成元年九月二七日、ファイアースターの各組合員に対し、本件映画の著作権を譲渡し、ファイアースター各組合員は、同日、IFDに対し、譲渡担保設定契約により本件映画の著作権を譲渡した。

(五)  第二次配給契約

IFDは、ファイアースターから許諾されたとされる本件映画に係る配給権なるものを、TSP及びCPIIに与えた。

2 本件売買契約の成否及び効力の有無

(一)  前記1(三)の平成元年九月二七日付各契約書(以下、これら契約書に係る取引を「本件取引」という。)の作成に当たり、TSP、CPIIないしIFDにおいては、原告ら出資者から本件映画の配給等に係る資金を調達する意思のみを有していて、本件映画の使用収益を原告ら出資者に委ねる意思は全くなく、また、原告ら出資者においても、本件映画の配給等に係る資金を提供する意思のみを有し、本件映画の使用収益を自ら享受する意思は全くなかった。そのことは、次の諸点から明らかである。

(1) 本件取引のようなフィルム・リース取引は、日本の投資家から資金を調達することのみを目的として考案されたものであり、これら投資家に対し所有者として使用収益する権利を譲り渡すことは全く念頭に置かれていない。

(2) 本件映画は、TSP及びCPIIが製作し、かつ全世界に配給しているのであり、本来TSP及びCPIIだけで製作から配給までを行えばよく、金融目的以外には、その過程でファイアースターを加える必要はない。また、原告は、パチンコ・不動産賃貸業を営む会社であって、映画の製作・配給等に関するノウハウを有しておらず、自らこれを行う意思も能力もなかった。

そして、本件取引については、本件説明書及び平成元年九月二七日付各契約書がアメリカ映画産業関係者によってすべて用意され、組合結成に係る契約書以外は英文のものしかない状態であり、日本企業としては、単に組合結成に係る契約書に記名押印するだけで投資に参加できる形に仕組まれている。すなわち、本件取引は、映画の製作・配給に多額の費用を要するTSP、CPII及びその意を受けたIFDが、日本企業に融資を負担させることを意図し、映画興行から生ずる利益と減価償却費の計上による節税から生ずる利益が享受できるとの触れ込みで日本企業から出資者を集め、原告がこれに応じたものにすぎない。

(3) 本件取引に係る各契約書によれば、ファイアースターは、本来所有者であれば当然保有してしかるべき権利を、すべてIFDに与える契約内容になっている。

すなわち、IFDには、ファイアースターの了解なしに、本件映画の題名の選択、変更等をすること、本件映画の化体されたフィルムをカット及び編集すること、本件映画に関するフィルムをすべて破棄すること、自らの選択するラボラトリーに本件映画に関するポジティブ・プリントその他を作成させること、本件映画の広告、宣伝、普及等を行うこと、本件映画の公開の権利を第三者に与えることなどが認められているのに対し、ファイアースターには、本件映画の製作、配給に関する事項についての発言力が一切与えられていない。

(4) ファイアースターとジェネシスとの間で締結された本件売買契約における本件映画の対価となる資金は、原告ら組合員の出資金とオランダ銀行からの借入金であり、ジェネシスを経由してTSP及びCPIIに流れている。しかし、このうちの約七八・四パーセントに当たる右借入金は、もともとTSP及びCPIIがIFDを通じてHBU銀行に預託していた金員であって、右金員が関係当事者間を一巡してTSP及びCPIIに戻っているにすぎないのであり、TSP及びCPIIは、本件映画に関する権利に見合う対価の約二一・六パーセントの代金しか得ていないことになる。

(二)  本件取引の形式は、原告ら出資者が専ら租税負担を回避することによって利益を得ることを期待して採られたものである。そのことは、次の諸点から明らかである。

(1) 通常の映画の場合、その興行から利益を受ける可能性が低いことは映画産業関係者にとって常識であり、本件においても、原告は、本件映画の興行による収益では出資金を上回る利益を得る可能性がほとんどないことを知りながら、あえて本件取引に参加した。すなわち、本件取引は、本件映画の興行によりいかなる損失を被ったとしても、それ以上に、減価償却費及び支払利息の計上により課税所得金額の圧縮を図り、租税負担を回避することによって利益を得ることを期待してされたものである。

(2) 原告は、本件取引に参加した平成元年九月期において、かなりの高収入・高所得が見込まれ、多額の租税負担が生ずることが予測された。

(3) 原告は、本件映画の減価償却費の計上によって約五億四四二三万円もの所得金額を圧縮することができ、オランダ銀行に対する借入金の支払利息の計上によっても約一億一〇四七万円の所得金額を圧縮することができ、租税負担の回避という形で利益を享受することができる。これらによって原告が負担を回避できることになる租税(地方税を含む。)の額は、約三億一五五三万円となり、原告がファイアースターに支払った出資金一億四三九五万円の全額が損失となったとしても、約一億七一五八万円の利益を享受できることになる。

また、原告は、本件取引に参加することにより、平成元年九月期から平成七年九月期までの七年間にわたって軽減された租税相当額の余剰資金四億九五三三万〇〇八七円をもとに、合計一億一三〇二万一二〇〇円の運用益(資金調達コストの軽減額)を享受したことになる。

(4) ファイアースターがオランダ銀行から借り入れた七一億九〇三〇万二五〇〇円とその利息三三億六七三七万八三五〇円の合計一〇五億五七六八万〇八五〇円については、最低でもこれに相当する金額がIFD(IFDが履行しなかったときは、本件保証契約に基づきHBU銀行)からファイアースターに保証支払額(九六億四一〇七万九二二五円)とフィックスト支払額又は延長アドバンス額(九億一六六〇万八一六二五円)との合計額として支払われることが約束されており、ファイアースターは全くの危険負担なしにオランダ銀行に対する借入元利金の返済ができることになっている。

このように、ほとんど専ら租税負担の回避によって利益を得ようとする取引につき、当事者が採用した法的外形をそのまま受け入れ、形式的な文言どおりに解釈することは、憲法三〇条の趣旨及び課税負担の公平の観点から許されない。

(三)  以上によれば、本件取引は、原告が、単に本件映画に係る費用を出資ないし融資した取引にすぎず、本件取引によって、本件映画に係る権利が原告の出資したファイアースターに移転したと解すべきではない。

すなわち、ファイアースターとジェネシスとの間で締結したとされる本件売買契約は、本件映画の売買契約としては不成立ないし無効というべきである。

3 本件課税処分の適法性

(一)  平成元年九月期

原告の平成元年九月期の所得金額は、二七億〇九〇四万四七三七円であり、右所得に対する法人税額は、一一億二一五六万七九〇〇円であるから、当期に係る本件更正及び本件賦課決定は適法である。

(1) 所得金額の計算について(別表3)

(イ) 同申告所得金額 二五億一三〇七万一五一〇円(別表3〈1〉)

(ロ) 器具備品減価償却費の償却超過額 一億九五九二万三五九七円

原告は、ファイアースターが平成元年九月二七日に九一億六六〇一万六二五〇円で取得した本件映画のうち、原告のファイアースターに対する出資割合に応じた五億七二八七万六〇一六円を器具備品勘定に計上し、耐用年数を二年とし、減価償却費一億九五九二万三五九七円を損金の額に算入している。

しかし、前記のとおり、ファイアースターは本件映画の所有者であるとはいえないから、原告が器具備品に計上した本件映画は減価償却資産となるものではなく、原告が損金の額に算入した右減価償却費は、その全額が償却超過額となり、損金の額に算入できないこととなる(別表3〈2〉)。

(ハ) 受取利息の計上漏れ額 二七万四六三〇円

ファイアースターは、本件映画の購入資金として、原告を含む組合員からの出資金とオランダ銀行からの借入金とを充てており、原告は、当期の決算書において、右借入金のうち、原告のファイアースターに対する出資割合に応じた四億四九三九万三九〇六円を長期借入金として計上している。

ところで、右借入金及び右借入金から生ずる借入利息については、前記2(二)(4)のとおりその全額に相当する金額をIFDから受領することができることとなっているから、右借入金から生ずる借入利息に相当する部分の金額は、受取利息として益金の額に算入すべきこととなる。したがって、原告が当期の支払利息として損金の額に算入した二七万四六三〇円と同額を原告の益金の額に算入することになる(別表3〈3〉)。

(ニ) 雑収入のうち益金の額に算入されない額二二万五〇〇〇円

原告は、当期において、本件配給契約に基づきIFDからファイアースターに支払われた配給料等の収入(右(ハ)以外のもの)を、ファイアースターに対する出資割合に応じて雑収入に計上している。

しかし、本件取引の実体は、ファイアースターが本件映画に係る権利を取得し、これをIFDに配給させるというものではないから、ファイアースタ-がIFDから受領した右収入は、単にファイアースターの利益を構成するものだけではなく、出資金の返還又はファイアースターのオランダ銀行からの借入金元本相当分のIFDからの返済を含むものと考えられる。そこで、このように明確に区分できない右収入は全額が出資金の返還に係るものとして、これを益金の額から減算するのが相当である(別表3〈8〉)。

(ホ) 所得金額 二七億〇九〇四万四七三七円

右(イ)の申告所得金額に、(ロ)の器具備品減価償却費の償却超過額及び(ハ)の受取利息の計上漏れ額を加算し、(ニ)の雑収入のうち益金の額に算入されない額を減算すると、所得金額は二七億〇九〇四万四七三七円となる(別表3〈11〉)。

(2) 法人税額の計算について(別表4)

(イ) 所得金額に対する法人税額 一一億一七九九万八四八〇円

原告の当期の所得金額二七億〇九〇四万四七三七円につき、国税通則法一一八条一項の規定による端数処理をし、法人税法六六条一項(昭和六三年法律一〇九号による改正前のもの)に規定する税率を乗じて計算すると、右所得金額に対する法人税額は、一一億一七九九万八四八〇円となる(別表4〈3〉)。

(ロ) 課税留保金額 一億九八五二万円

原告は、法人税法二条一〇号に規定する同族会社に該当するから、同法六七条一項の規定により、留保金額に対して法人税が課されることとなる。そこで、当期の所得金額のうち、留保された金額を基礎として、当期の法人税の更正に伴う法人税額等の増加額を調整して計算すると、課税留保金額は一億九八五二万円となる(別表4〈4〉)。

(ハ) 課税留保金額に対する法人税額三三二〇万四〇〇〇円

右(ロ)の課税留保金額一億九八五二万円に対する法人税額は、法人税法六七条の規定により計算すると、三三二〇万四〇〇〇円となる(別表4〈5〉)。

(ニ) 所得税額の控除額二九六三万四四九八円

右金額は、当期の法人税確定申告書に記載された所得税額の控除額である(別表4〈6〉)。

(ホ) 差引合計法人税額 一一億二一五六万七九〇〇円

右(イ)の所得金額に対する法人税額一一億一七九九万八四八〇円に、( )ハの課税留保金額に対する法人税額三三二〇万四〇〇〇円を加算し、(ニ)の所得税額の控除額二九六三万四四九八円を減算した金額(国税通則法一一九条一項の規定による端数処理をしたもの)である(別表4〈7〉)。

(3) 過少申告加算税について(八七八万七〇〇〇円)

本件更正に基づいて納付すべき法人税額八七八七万七二〇〇円に国税通則法一一八条三項の規定による端数処理をした金額に、同法六五条一項所定の一〇〇分の一〇の割合を乗じた金額である。

(二)  平成二年九月期

原告の平成二年九月期の所得金額は、七億〇九六四万四五四七円であり、右所得に対する法人税額は、二億三〇四一万二九〇〇円であるから、当期に係る本件更正及び本件賦課決定は適法である。

(1) 所得金額の計算について(別表3)

(イ) 申告所得金額 四億五〇五八万三七七三円

(ロ) 器具備品減価償却費の償却超過額 二億五七八三万五四五四円

前記(一)(1)(ロ)に記載したところと同様である(別表3〈2〉)。

(ハ) 受取利息の計上漏れ額二五三四万二〇二〇円

前記(一)(1)(ハ)に記載したところと同様である(別表3〈3〉)。

(ニ) 雑収入のうち益金の額に算入されない額 六〇万円

前記(一)(1)(ニ)に記載したところと同様である(別表3〈8〉)。

(ホ) 未納事業税の認容額 一一三五一万六七〇〇円

右認容額は、前期(平成元年九月期)の法人税の更正に伴い増加した事業税額であり、これを当期の損金の額に算入した(別表3〈9〉)。

(ヘ) 所得金額 七億〇九六四万四五四七円

右(イ)の申告所得金額に、(ロ)の器具備品減価償却費の償却超過額及び(ハ)の受取利息の計上漏れ額を加算し、(ロ)の雑収入のうち益金の額に算入されない額及び(ホ)の未納事業税の認容額を減算すると、所得金額は七億〇九六四万四五四七円となる(別表3〈11〉)。

(2) 法人税額の計算について(別表4)

(イ) 所得金額に対する法人税額 二億八二三二万二六〇〇円

原告の当期の所得金額七億〇九六四万四五四七円につき、国税通則法一一八条一項の規定による端数処理をし、法人税法六六条一項(昭和六三年法律一〇九号改正附則一七条によるもの)に規定する税率を乗じて計算すると、右所得金額に対する法人税額は、二億八二三二万二六〇〇円となる(別表4〈3〉)。

(ロ) 所得税額の控除額五一九〇万九六九〇円

右金額は、当期の法人税確定申告書に記載された所得税額の控除額である(別表4〈6〉)。

(ハ) 差引合計法人税額二億三〇四一万二九〇〇円

右(イ)の所得金額に対する法人税額二億八二三二万二六〇〇円から、(ロ)の所得税額の控除額五一九〇万九六九〇円を減算した金額(国税通則法一一九条一項の規定による端数処理をしたもの)である(別表4〈7〉)。

(3) 過少申告加算税について(一〇三六万二〇〇〇円)

本件更正に基づいて納付すべき法人税額一億〇三六二万四四〇〇円に国税通則法一一八条三項の規定による端数処理をした金額に、同法六五条一項所定の一〇〇分の一〇の割合を乗じた金額である。

五  被告の主張に対する認否と原告の反論

1  被告の主張1の事実(本件の事実経過)は認める。

2  同2の主張(本件売買契約の成否及び効力の有無)は争う。

3  同3の主張(本件課税処分の適法性)のうち、平成元年九月期及び平成二年九月期について、本件映画の減価償却費の損金算入を否認する部分、及びオランダ銀行からの借入金から生ずる借入利息と同額を受取利息として益金の額に算入すべきものとする部分は争う。

本件取引については、被告の主張1記載の各契約書に明記されたとおりの契約の存在及び効力を認めるべきである。すなわち、

(一) 原告は、本件取引に参加した当時、新規事業の開拓を模索しており、そのひとつとして、若い世代にとって魅力的なために新規従業員の獲得に有利なレンタルビデオ業への参入も考えていたので、映画フィルムの所有者として映画についてのノウハウを取得することを目的とし、また、本件説明書にあるとおり、節税効果に対する期待もあったものの、映画投資にはハイリスク・ハイリターンが期待されるが、ビデオブームの中でビデオから上がる収益により採算が向上してリスクも若干小さくなっていたことから、本件取引に参加することを決断したのであって、租税回避を目的としたものではない。

(二) ファイアースターは、同組合が所有する本件映画をIFDに賃貸し、これに化体された本件映画の配給権及び著作権の使用権をIFDに許与することにより、本件映画の興行及びビデオ等の販売その他の映画配給から上がる収益からその対価を得ていたものであって、映画フィルムやこれに化体されている映画著作権及び所有権まで譲渡してしまったものではない(なお、IFDが破棄することのできる本件映画に関するプリント及びその他のフィルムから除くものとされている「ファイアースターの費用負担により提供されたネガティブ等」にいう「ネガティブ」は、ファイアースターがIFDに対し賃貸目的物として提供した本件映画を指すのであり、したがって本件映画フィルムについては、本件配給契約上、IFDによる破棄が認められていないのであるから、IFDは、被告主張のように本件映画に関するフィルムをすべて破棄することが認められているわけではない。)。

また、原告を含むファイアースターの組合員らは、ジェネシスからその所有する本件映画を購入した上、IFDに対し、本件映画を賃貸し、かつ本件映画の配給権を与えることによって利益を得るという意思で本件取引に参加したものであって、ジェネシスはTSP及びCPIIから本件映画を取得したものであることやその売買の条件は知らず、また、IFDがTsp及びCPIIと第二次配給契約を締結することも知らなかったのであるから、その存在すら知らなかったTSP及びCPIIに投資することを目的として本件取引に参加したということはあり得ない。

(三) 本件取引が金融取引であるとすれば、ファイアースターが支払った金額はすべて貸金なのであるから、全額返還されるべきものであり、加えて利息も支払われるのが通常である。ところが、本件取引において、ファイアースターは、一〇五億五七六八万〇八五〇円(オランダ銀行からの借入金七一億九〇三〇万二五〇〇円とこれに対する借入利息との合計額)についてはその回収が保証されているものの、各組合員の出資金合計額である二三億〇三二〇万円については、本件映画の興行による利益が全く出ない場合には回収が不可能となる。このことは、本件取引が金融取引でないことを示すものである。

実際にも原告は、一億四三九五万円の出資に対し、ファイアースターから六〇五三万三七四九円(ファイアースターがIFDから受け取った九億六八五四万〇五九〇円の一六分の一)しか受け取っていないので、本件取引に参加したことにより、単純に差引きをしても八三四一万六二五一円の損失を被っている。

第三証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  被告の本案前の主張について

原告が別表1、2の「確定申告」欄のとおり、平成元年九月期については所得金額二五億一三〇七万一五一〇円、納付すべき税額六億二六三一万一九〇〇円、平成二年九月期については所得金額四億五〇五八万三七七三円、納付すべき税額一億二六七八万八五〇〇円として確定申告をしたことは当事者間に争いがない。

そして、法人税については、申告納税方式が採用されているから、その納税義務は、納税義務者が確定申告をすることにより原則として確定するのであって(国税通則法一六条参照)、納税義務者は、確定申告において自認した金額を超えない部分につき、更正の請求等の手続によることなく、更正の取消しを求める法律上の利益を有しないというべきである。したがって、本件訴えのうち、別表1、2の「確定申告」欄記載の各所得金額及び納付すべき税額を超えない部分の取消しを求める訴えは、訴えの利益を欠くものとして不適法であり、却下を免れない。

二  本件における課税の経過について

請求原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

三  本件課税処分の適法性に関する被告の主張について

1  被告の主張1(本件の事実経過)の事実は、当事者間に争いがない。

2  そこで、右事実を前提として、本件取引の内容につき検討する。

(一)  本件配給契約について

(1) 本件配給契約によれば、ファイアースターとIFDは、本件映画に関し次の内容の合意をしていることが認められる。

(イ) ファイアースターは、IFDに対し、本件配給契約の期間中、次の権利を単独かつ排他的に与える。

〈1〉 題名の選択、変更等をすること。

〈2〉 本件映画、オリジナル・ネガティブその他の本件映画が化体されている有体物をカットし、編集し、追加し又は変更すること等。

〈3〉 IFDの選択するラボラトリー等に本件映画に関するポジティブ・プリント、ビデオ・テープ、ディスクその他を作成させること等。

〈4〉 本件映画の広告、宣伝・普及等を行うこと(ファイアースターは、IFDの事前の同意なしに、本件映画に関する広告等をすることはできない。)。

〈5〉 本件配給契約の期間を超える期間にわたる本件映画の公開の権利を第三者に与えること(右第三者の権利は、本件配給契約の期間終了によって影響されない。)。

(ロ) IFDは、自らの名義あるいは著作権所有者の名義で、本件映画の不正な複製、公開若しくは本件映画の著作権の侵害を防止し、又はファイアースター若しくはIFDの権利の侵害等を防止するため、必要又は適当と認める手段を採ることができる。ファイアースターは、IFDに対し、右手段を採るために必要な、撤回不能の代理権を与える。

(ハ) IFDは、ファイアースターの費用負担により提供されたネガティブ等を除き、本件映画に関するプリント及びその他のフィルムを破棄することができる。

(ニ) IFDは、その裁量と選択により、第三者(第二次配給者)に対して本件配給契約上の地位を譲渡することができ、又は本件配給契約上の権利を譲渡若しくは許諾することができる。

(ホ) 本件配給契約によりファイアースターからIFDに与えられた権利等は、本件映画に関するいかなる契約の不履行、違反、解除、終了の理由によってもその結果としても、解除、変更その他の不利な影響を受けることがなく、また、ファイアースターは、契約期間中いかなる契約の改正、変更、終了、又は契約の条項によるIFDの権利に不利益な影響を与えるような変更、終了、解除等も行うことができない。

(ヘ) ファイアースター又はその組合員は、本件映画に関する権利又は権益を、IFDに与えられた権利に悪影響を与えるようには、いかなる者にも売却、譲渡するなどしない。

(ト) 本件配給契約によってIFDに与えられた、又は与えることが合意された本件映画に関する権利、権原等は、本件配給契約又は関連契約の失効又は終了によって影響を受けない。

(チ) IFDが本件配給契約に違反した場合でも、ファイアースターの権利及び救済は、損失の回復に限られ、ファイアースターは、本件配給契約を終了させる権利、IFDの権利等を取り消す権利、又は本件映画の公開等を規制し若しくは制限することを含むすべての権利又は救済を放棄する。また、IFDが本件配給契約に基づくファイアースタ-に対する支払を怠った場合でも、IFDの本件映画に関する権利は終了、解除されることはなく、ファイアースターの救済としては、金銭上の損失の回復を求めるための法律上の措置を採ることができるにすぎない。

(2) これら右(1)の本件配給契約の内容からすると、IFDは、本件映画の管理、使用収益及び処分に関するほとんど完全な権利を行使することができるとされている(なお、右(1)(ハ)のとおり、IFDが破棄することのできる本件映画に関するプリント及びその他のフィルムから、「ファイアースターの費用負担により提供されたネガティブ等」は除くものとされていることについて、原告は、右にいうネガティブはファイアースターがIFDに対し賃貸目的物として提供した本件映画フィルムを指すのであり、したがって本件映画フィルムについては、本件配給契約IFDによる破棄が認められていない旨主張するが、証拠《乙七の1・2》によれば、右約定が定められた条項には「PRINTS」《プリント》という標題が付されていること、IFDが破棄することのできる目的物から除外されるものとしては「ネガティブ及び微粒子プリント」が掲げられているのみであることが認められ、これらの事実に照らすと、本件映画フィルムそれ自体が、IFDが破棄することのできる目的物から除外されているとは認め難い。)一方、ファイアースターは、本件映画の所有者であれば本来有していてしかるべき諸権利の行使を全く認められていないことが明らかである。特に、IFDは、その裁量と選択により、第三者(第二次配給者)に対して本件配給契約上の地位を譲渡することができ、又は本件配給契約上の権利を譲渡若しくは許諾することができるものとされていること、第三者からの権利侵害についても、ファイアースターはIFDに対し、必要な措置を採る権限を全面的に与えていること、ファイアースターは、IFDに契約違反があった場合でも、救済としては金銭上の損失の回復を求めることができるのみで、本件配給契約を終了させるなどIFDが有する諸権利を取り消す権利は一切有しないものとされていることなどを考えると、結局のところ、ファイアースターは、本件映画に関して、IFDから金銭の支払を受ける権利のみを有しているにすぎないものと認められる。したがって、本件配給契約をもって、本件映画のファイアースターからIFDに対する単なる賃貸・配給契約とみることはできないというべきである。

(二)  第二次配給契約について

IFDは、前記のとおり、その裁量と選択により、第三者(第二次配給者)に対して本件配給契約上の地位を譲渡することができ、又は本件配給契約上の権利を譲渡若しくは許諾することができる旨ファイアースターとの間で合意しているところ、IFDは、右合意に基づき、第二次配給契約によって、ファイアースターから許諾された本件映画に係る配給権をTSP及びCPIIに譲渡したものである。右第二次配給契約によれば、IFDが本件映画に関して有しているとされた前記の諸権利は、本件映画の製作者であり、最初の著作権者であるTSP及びCPIIが最終的にこれらを行使できることになったものと認められる。

(三)  本件オプション契約について

本件オプション契約によれば、IFDは、クラスAオプションを行使することにより、本件映画に関するファイアースター等のすべての権利等を、クラスBオプションを行使することにより、組合員のファイアースターに対する権利等をそれぞれ取得することができるものとされており、しかも、これらのオプションはIFDの一存で行使することができ、また、クラスAオプションの行使によって本件配給契約が終了しても、ファイアースターに対するIFDの一定の金員の支払義務は消滅しないこととされている。

(四)  オランダ銀行に対する借入元利金の返済について

本件融資契約によれば、ファイアースターは、オランダ銀行から、本件映画の購入資金として七一億九〇三〇万二五〇〇円を借り入れ、これに年率五、五パーセントで月複利による利息(一年を三六〇日、一月を三〇日として計算するものとされている。)を付して借入日から七年目に当たる返済日までに同銀行に返済すべきものとされている。

一方、本件配給契約及び本件オプション契約によれば、IFDは、ファイアースターに対し、保証支払額九六億四一〇七万九二二五円を支払うほか、IFDがクラスAオプションを行使した場合にはフィックスト支払額として、ファイアースターが延長オプションを行使した場合には延長アドバンス額として、少なくとも九億一六六〇万一六二五円を支払うこととされていて、これらの合計額一〇五億五七六八万〇八五〇円は、ファイアースターがオランダ銀行に返済すべき借入元利合計金に合致することが認められ、しかも、ファイアースターとHBU銀行との間における本件保証契約によれば、IFDが右金員の支払をしないときは、同契約に基づきHBU銀行がその支払をすることとされている。

したがって、ファイアースターは、不履行の危険を負担することなく、オランダ銀行に対する借入元利金の返済ができるものとされているというべきである。

(五)  TSP及びCPIIの立場について

前記1の事実のほか、証拠(乙三の1・2)及び弁論の全趣旨によれば、本件売買契約における本件映画の代金は、九一億六六〇一万六二五〇円であり、ジェネシス及びメディバルを通じて最終的にTSP及びCPIIがこれを取得していること、ファイアースターは、本件融資契約により、オランダ銀行から七一億九〇三〇万二五〇〇円を借り入れ、右借入金に組合員からの出資金合計二三億〇三二〇万円を加えた合計額九四億九三五〇万二五〇〇円をもって右代金の支払をしていること(なお、右合計額と本件映画の代金との差額は、メリルリンチ及びオランダ銀行に対する手数料支払等の諸費用に充てられている。)、TSP及びCPIIは、第二次配給契約に基づき、右借入金相当額をIFDに支払っていることが認められる。これらの事実及び前記(二)によれば、結局、本件取引により、TSP及びCPIIは、本件映画に関する諸権利を失わない反面、ファイアースターの組合員による出資金相当額から諸費用相当額を差し引いた残額(本件売買契約による代金相当額の約二一・六パーセントに相当する。)を取得したにすぎないものと認められる。

(六)  ファイアースターによる本件映画に関する諸権利行使の機会について

ファイアースターの結成に係る本件組合契約、ファイアースターがジェネシスから本件映画を買い入れる旨の本件売買契約、ファイアースターとIFDとの間における本件配給契約は、いずれも同じ平成元年九月二七日付で締結されており、このことからすれば、ファイアースターには、本件映画に関する諸権利を行使する機会は当初から全く与えられていなかったものと認められる。

3(一)  証拠(甲四)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、パチンコ及び不動産賃貸等を業とする会社であって、本件取引以前には映画の製作、配給等に関与したことはないものと認められることに加え、前記1の事実のとおり、原告は、投資家が投資によって得る損益は映画興行の相対的成功度で決まる変動レンタル料の組合受領金額と課税上の優遇措置とによって生ずる旨記載のある本件説明書に基づく説明を受け、主として本件映画の減価償却費等の経費処理による法人税の負担軽減の利益を得るため、ファイアースターに参加することを決定したこと、本件取引に関する各契約書は、本件組合契約書を除きいずれも英文のものしかなかったことからすると、原告は、映画興行による利益と減価償却費の損金計上等によって生ずる課税上の利益を得ることを目的として、単に資金の提供のみを行う意思のもとにファイアースターに参加したものであって、ファイアースターを通して本件映画を所有し、その使用収益等を行う意思は有していなかったものと推認するのが相当である。

(二)  この点に関し、原告は、本件取引への参加の目的は、当時模索していた新規事業のひとつとしてレンタルビデオ業への参入も考えていたので、映画フィルムの所有者として映画についてのノウハウを取得することであった旨主張し、この主張に沿うかのような甲第四号証の記載も存する。

しかしながら、前記1の事実によれば、原告は本件説明書に基づく説明を受けたのみで、本件取引の詳細については十分理解しないままファイアースターに参加することを決めたものであること、本件取引への参加のために原告が現実に行った行為は、ファイアースターに対する出資行為のみであり、原告ら組合員は、本件組合契約により、アメリカ合衆国デラウェア州法人で日本国内に恒久的施設を置かないエム・エル・フィルムとの間で本件管理契約を締結することに同意し、同社にファイアースターの業務執行を一任していたのであるから、本件取引に参加することにより映画についてのノウハウやレンタルビデオ業に関する知識、経験が得られるとは考えられないこと(なお、ファイアースターの業務執行をエム・エル・フィルムに一任することについては、本件説明書にも同社が組合の業務執行者として運営に当たる旨記載されていたのであるから、原告は、本件取引に参加するに当たり、そのことを了解していたものと認められる。)がそれぞれ明らかであり、これらの点に照らすと、原告が本件取引に参加した目的が、新規事業のひとつとして考えていたレンタルビデオ事業への参入のために映画についてのノウハウを取得することにあったものとは考え難い。

したがって、甲第四号証の右記載は信用するに足りず、原告の右主張を採用することはできない。

(三)  また、原告は、本件取引に参加する際、ジェネシスはTSP及びCPIIから本件映画を取得したものであることやその売買の条件は知らず、IFDがTSP及びCPIIと第二次配給契約を締結することも知らなかったのであるから、その存在すら知らなかったTSP及びCPIIに投資することを目的として本件取引に参加したということはあり得ない旨主張する。

しかしながら、原告が本件取引全体の構造を前提としてファイアースターに参加したものである以上、本件取引を構成する各契約の解釈は当然に原告にも及ぶものというべきであり、仮に原告が本件取引の詳細について十分理解していなかったとしても、そのことは、原告が単に資金の提供のみを行う意思のもとにファイアースターに参加したものであって、ファイアースターを通して本件映画を所有し、その使用収益等を行う意思は有していなかったとの前記推認を妨げるものではないから、原告の右主張も失当というべきである。

(四)  さらに、原告は、ファイアースターの各組合員の出資金合計額である二三億〇三二〇万円については、本件映画の興行による利益が全く出ない場合には回収が不可能となるものであって、このことは本件取引が金融取引でないことを示すものであり、実際にも原告は、本件取引に参加したことにより八三四一万六二五一円の損失を被っている旨主張するけれども、原告が損失を被ったというのは、減価償却費の損金計上等による課税上の利益分を考慮しない場合のことであるのみならず、原告が本件取引により結果として損失を被ったとしても、そのことが直ちに、原告が本件取引に参加する際の意思・目的についての前記推認を左右するわけではないから、原告の右主張も失当というべきである。

4  以上によれば、本件取引は、その実質において、原告がファイアースターを通じて、TSP及びCPIIによる本件映画の興行に対する融資を行ったものであって、ファイアースターないしその組合員である原告は、本件取引により本件映画に関する所有権その他の権利を真実取得したものではなく、単に、原告ら組合員の租税負担を回避する目的のもとに、本件各契約書上ファイアースターが本件映画の所有権を取得するという形式、文言が用いられたにすぎないと解するのが相当である。

5  そこで、被告の主張3(本件課税処分の適法性)につき判断する。

(一)  本件映画の減価償却費の損金算入の否認の点について

原告が平成元年九月期及び平成二年九月期における各申告所得金額の計算に当たり、被告の主張3の(一)(1)(ロ)及び(二)(1)(ロ)記載の各金額を本件映画の減価償却費として損金の額に算入していることは、原告において明らかに争わないところである。

しかしながら、右4説示のとおり、本件取引は、その実質において、原告がファイアースターを通じて、TSP及びCPIIによる本件映画の興行に対する融資を行ったものであって、ファイアースターないしその組合員である原告は、本件取引により本件映画に関する所有権その他の権利を真実取得したものではなく、単に、原告ら組合員の租税負担を回避する目的のもとに、本件各契約書上ファイアースターが本件映画の所有権を取得するという形式、文言が用いられたにすぎないから、原告が本件映画は減価償却資産に当たるとして、その減価償却費を損金の額に算入したことは相当でなく、右算入に係る全額が償却超過額になるものというべきである。

(二)  オランダ銀行からの借入金から生ずる借入利息と同額の受取利息の計上漏れとの点について

原告が平成元年九月期及び平成二年九月期における各申告所得金額の計算に当たり、ファイアースターのオランダ銀行からの借入金のうち、原告のファイアースターに対する出資割合に応じた四億四九三九万三九〇六円を長期借入金として計上し、これから生ずる各期の借入利息二七万四六三〇円、二五三四万二〇二〇円を当期の支払利息として損金の額に算入していることは、原告において明らかに争わないところである。

しかして、前記2(四)に説示したところによれば、オランダ銀行からの右借入金については、ファイアースターは、IFD又はHBU銀行からその借入元利合計金全額に相当する金員の支払を受けることとされているのであるから、支払利息として損金の額に算入した右借入利息に相当する金額を、受取利息として益金の額に算入すべきものである。

(三)  その余の適法性に関する事実について

被告の主張3(本件課税処分の適法性)のその余の事実は、原告において明らかに争わないから、これらを自白したものとみなす。

以上によれば、本件課税処分は適法であって、原告の請求はいずれも理由がない。

四  結論

よって、本件訴えのうち、別表1、2の「確定申告」欄記載の各所得金額及び納付すべき税額を超えない部分の取消しを求める訴えは、いずれも不適法として却下し、その余の部分については、原告の請求をいずれも理由なしとして棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 石井寛明 裁判官 石丸将利)

別表1 課税の経緯

〈省略〉

別表2 課税の経緯

〈省略〉

別表3

所得金額の内訳表

〈省略〉

別表4

法人税額の計算

〈省略〉

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